メイドインアビスの残酷描写はやりすぎか

で、本音のところ、どうなの? 『メイドインアビス』は「絵柄がかわいいのに内容が重い」と語られがちな作品です。正直に言うと、この評価の仕方は半分当たっていて半分ずれている、というのが筆者の立場です。やりすぎかどうかを判定する前に、まず何がどこまで描かれているのかを事実として並べます。

【ネタバレ注意】本記事にはアニメシリーズおよび劇場版のレイティングに関する情報が含まれます。具体的な展開の結末には踏み込みません。

で、結局どのくらいの水準なの?

感覚で語ると話がまとまらないので、公的な指標から見ます。

劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』は、当初PG12として告知されていました。ところが映画倫理機構による最終的な検定の結果、15歳未満は観覧禁止となるR15+指定に変更されています(コミックナタリー 2019年12月25日)

この変更に伴い、製作委員会は15歳未満で前売り券を持っている人にチケット代を払い戻す対応まで行いました。事前告知より厳しい判定が出て、興行側が実務的な後始末をした。これは相当めずらしい経緯です。

ただし、ここは分けて考える必要があります。R15+はあくまで劇場版『深き魂の黎明』という個別の作品に付いた判定であって、シリーズ全体に一律で付いているわけではありません。TVシリーズはテレビ放送された作品ですし、原作も一般の連載作品です。

それでも、同じ地続きの物語のなかで映倫がその判断を出した。ここが重要です。シリーズのどこかに、劇場公開の基準では15歳未満に見せられないと判断される領域が確かにある、ということになります。

つまり「ファンが大げさに言っているだけ」ではありません。第三者機関が線を引き直した水準の作品である、というのが出発点です。

なぜ「やりすぎ」と言われるのか

批判側の言い分は、だいたい3つに整理できます。

ひとつめは、絵柄とのギャップです。丸みのあるキャラクターデザインと、実際に起きる出来事の落差が大きい。予備知識なしで1話から入ると、想定していた作品像が途中で崩れます。「聞いてない」という感想が出るのは自然です。

ふたつめは、痛みの描写が長いこと。多くの作品は苦痛を一瞬で処理しますが、この作品は処置の過程や回復までを省略しません。時間をかける分、読者の負荷も比例して増えます。

みっつめは、対象が子どもであること。探窟家として潜るのは少年少女です。同じ描写でも、成人キャラが受けるのとは受け止め方が変わる。ここが最も意見の割れる点です。

加えて、逃げ場の作り方が薄いという指摘もあります。重い場面のあとに軽い日常回を挟んで読者を休ませる、という構成をこの作品はあまり取りません。連続して読むほど蓄積します。

気持ちは分かる、と言っておきます。この4点はどれも言いがかりではなく、作品の設計をそのまま指しています。「合わなかった」という感想は、作品を読み違えた結果ではなく、設計どおりの反応です。

じゃあ批判は妥当なのか

ここで反対側の論拠も置きます。『メイドインアビス』の過酷さは、装飾ではなく世界設定そのものから出てきています。

アビスには、深度を上がろうとすると身体に負荷がかかるという規則がある。深く潜るほど戻る代償が重くなる。この一点だけで「安易に引き返せない」という緊張が全編に効いています。危険を軽く描いてしまうと、この設定は嘘になります。

制作の履歴を見ても、思いつきで過激にしているわけではないことが分かります。TVアニメ第1期は2017年7月7日から9月29日まで全13話、制作はキネマシトラス、監督は小島正幸さん。2019年に劇場版総集編2部作、2020年に完全新作の劇場版、2022年7月6日から9月28日には第2期『烈日の黄金郷』全12話と、5年以上かけて同じ水準を維持しています。方針が一貫している作品を「刺激で釣っている」と評するのは、事実に合いません。

もうひとつ。原作はつくしあきひとさんが竹書房のWEBコミックガンマで連載している作品で、探窟の道具立てや遺物の設定は序盤から丁寧に積まれています。世界の作り込みに費やされた分量を見れば、過酷な場面が全体の主目的でないことは読めば分かります。

ただし、妥当性が認められるからといって、誰にでも勧めていい理由にはならない。ここは分けて考えるべきところです。

本音のところ

筆者の見解は「やりすぎではないが、入口の案内が足りていない」です。

作品側は水準を偽っていません。劇場版ではレイティングを引き上げ、返金対応まで実施した。誠実な部類です。問題があるとすれば、かわいらしいビジュアルだけが先に拡散し、そこから入った人が防具なしで踏み込んでしまう構造のほうでしょう。

だから「グロいから駄目な作品」も「耐えられない人が弱い」も、どちらも雑な話だと思っています。合わない人は本当に合いません。それは感受性の優劣ではなく、単に得意な領域が違うだけです。

読むかどうか迷っているなら、判断材料はレイティングで足ります。R15+相当の描写があると理解したうえで、それでも中身を知りたいと思うか。そこで止まるなら止まっていい。どう感じるかは読む人次第です。

それでもメイドインアビスが面白い理由

ここまで身構える話を書いておいてなんですが、この作品の中心にあるのは残酷さではありません。「それでも下へ行きたい」という衝動です。

戻れなくなると分かっていて潜る。代償を知っていて進む。痛みが省略されないからこそ、その先へ進む選択に重さが乗る。恐怖と憧れが同じ場所から出ていることを、これほど正面から描いた冒険譚はそう多くありません。

だからこそ、覚悟して踏み込んだ人にはずっと残る作品になる。公式情報は劇場シリーズ『メイドインアビス』公式サイトで確認できます。


正直、1期の終盤を初見で観たときは画面から目をそらしました。それでも次の話を再生した自分がいるので、結局この作品に負けているんだと思います。

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