『タコピーの原罪』はただの“胸糞鬱漫画”なのか?「海外で鬼滅超え」「百合エンド論争」について考察

2021年末、彗星のごとく現れ、わずか16話で日本のネットカルチャーを震撼させた漫画がありました。

その名は、「タコピーの原罪」

ジャンプ+で連載が始まるや否や、毎話更新されるたびにTwitterのトレンドを独占。

最終話は1日で350万閲覧という前人未到の記録を打ち立て、社会現象と呼ぶにふさわしい熱狂を生み出しました。

しかし、その評価は「令和の傑作」という絶賛と、「胸糞すぎる鬱漫画」という拒絶反応で、見事に真っ二つに割れています。

正直に言うと、俺も最初は「どうせまた、過激な描写でバズを狙った作品だろ?」と斜に構えていました。

ですが、読み進めるうちに、そしてネットで繰り広げられる激しい論争を目にするうちに、この作品が持つ“毒”の正体が気になって仕方がなくなったのです。

なぜこの作品は、これほどまでに俺たちの心をかき乱し、賛否両論の嵐を巻き起こしたのか。

今回はその熱狂と論争の正体を、少し深く掘り下げて語っていこうと思います。

「陰湿なドラえもん」が描いた、救いのない地獄

作者のタイザン5先生が自ら語ったコンセプトは、「陰湿なドラえもんをやりたい」というものでした。

この一言が、本作のすべてを物語っています。

地球にハッピーを広めるためやってきたタコ型宇宙人「タコピー」。

彼が出会ったのは、家庭環境と壮絶ないじめに苦しむ小学4年生の少女「しずかちゃん」。

タコピーは、のび太くんを助けるドラえもんのように、「ハッピー道具」でしずかちゃんを笑顔にしようと奮闘します。

しかし、ここからが地獄の始まりでした。

タコピーの純粋すぎる善意と、地球人の複雑な悪意を理解できない無知さが、最悪の化学反応を起こします。

便利な道具は問題を解決するどころか、事態をどんどん悪化させ、登場人物たちを破滅へと導いていくのです。

もはや悪夢としか言いようがありません。

誰も“絶対悪”ではない、登場人物たちの複雑な関係

この物語が厄介なのは、誰か一人を「こいつが悪い」と断罪してスッキリできない構造にあります。

  • 久世しずか:ネグレクトといじめの被害者。しかし、生きるために他人を利用する冷徹さも併せ持つ。
  • 雲母坂まりな:しずかをいじめる加害者。しかし、その裏では親からのDVと過度な期待に苦しむ被害者でもある。
  • 東直樹:優秀な兄と比較され教育虐待を受ける優等生。承認欲求からしずかを助けようとし、殺人事件の隠蔽に加担してしまう。

そう、この物語には、単純な悪役が存在しないのです。

全員が加害者であり、同時に被害者でもある。

この救いのない構図が、読者に強烈なモヤモヤと問いを突きつけます。

「一体、誰を憎めばいいんだ?」と。

ネットを二分した三大論争、あなたはどう思う?

さて、ここからは少しゲスい話になりますが、この作品の熱狂を語る上で「炎上」と「論争」は避けて通れません。

本作がネット上でどのような議論を巻き起こしたのか、見ていきましょう。

論争①:「胸糞」描写は必要だったのか?

本作がまず物議を醸したのは、そのあまりにも過激な描写でした。

小学生による首吊り自殺、愛犬の保健所送り、生々しい暴力シーン…。

SNSでは「読んでて気分が悪くなった」「トラウマになる」といった声が溢れかえりました。

なんJや5chでは「可愛い絵柄で残酷なことやらせりゃウケると思ってる」という冷ややかな意見と、「このくらいの衝撃がないと、問題の根深さは伝わらない」という擁護が激しくぶつかり合いました。

いじめや家庭問題をエンタメとして消費することへの倫理的な問いかけは、今なお続いています。

論争②:「本当の悪は誰か」を巡る代理戦争

明確な悪役がいないため、読者のヘイトは様々なキャラクターに向けられました。

特に、いじめの首謀者であるまりなちゃんへの評価は真っ二つに。

「どんな理由があろうと暴力は許されない」という断罪派と、「彼女もまた毒親の被害者だ」という同情派によるレスバトルは、各所で泥沼化しました。

この論争は、最終的に「元凶は全部、子供を追い詰めた大人たちじゃないか?」という結論に収束していく傾向がありましたが、これもまた一つの真理でしょう。

読者がそれぞれの正義をぶつけ合う様は、まさに作品のテーマを体現しているようでした。

論争③:最終回「百合エンドか否か」問題

そして極めつけが、最終回を巡る解釈バトルです。

ネタバレは避けますが、物語の結末はしずかとまりなの関係性に一つの答えを示す形で幕を閉じます。

これを「究極の百合エンドだ!」と解釈する層と、「いや、あれは友情と和解の物語だ」と解釈する層がTwitterで大激突。

「タコピー」だけでなく「ハッピーエンド」や関連ワードが次々トレンド入りするお祭り騒ぎになりました。

作品の解釈が読者のセクシュアリティ観まで巻き込んで燃え上がる現象は、非常に現代的で興味深いものでしたね。

なぜか海外では『進撃の巨人』超えの超絶評価

これだけ国内で賛否を巻き起こしたタコピーですが、実は海外での評価がとんでもないことになっています。

世界最大級の映画・ドラマレビューサイトIMDbでは、アニメ版(全6話構成で配信)のスコアが全話9.0以上という驚異的な数字を記録。

これは、あの『進撃の巨人』や『鬼滅の刃』ですら成し遂げられなかった、異常なまでの安定高評価です。

なぜ、これほどまでに評価が違うのでしょうか?

あくまで俺の推測ですが、日本の読者はキャラクターへの感情移入を重視する傾向が強いのかもしれません。

だからこそ、「誰にも共感できない」「ただただ胸糞悪い」という感情的な反発が生まれやすい。

一方で、海外の視聴者は、そうした感情のフィルターを一旦外し、物語の構造やテーマ性をよりドライに評価する傾向があるのではないでしょうか。

彼らにとってタコピーは、機能不全家族、貧困の連鎖、スクールカーストといった普遍的な社会問題を、極めて巧みな構成で描き切った人間ドラマとして、高く評価されているのかもしれません。

タコピーが犯した「原罪」の正体

結局、この物語が伝えたかったことは何だったのか。

作品の核心に、タコピーが犯した「原罪」についての独白があります。

ハッピー星の掟を破って道具を人間に委ねたこと? それも一つの罪でしょう。

しかし、タコピーが本当に悔いたのは、「一人で決断し、誰とも相談しなかった」ことでした。

この作品は、徹頭徹尾「対話」の不在が悲劇を生む構造を描いています。

親と子、子と子、誰もがお互いの苦しみを理解しようとせず、一方的な正義や善意を押し付け、すれ違っていく。

タコピーの言う「おはなし」こそが、その連鎖を断ち切る唯一の方法だったのです。

「タコピーの原罪」は、ただ読者を不快にさせるだけの鬱漫画ではありません。

それは、俺たち自身のコミュニケーションのあり方を鋭く問い直す、巨大な鏡のような作品だったのではないでしょうか。

論争が巻き起こること、読者が「嫌いだ」と叫ぶことすら、作者の仕掛けた問いに対する一つの応答だったのかもしれません。

2025年には待望のアニメ化も決定しています。

この息苦しい地獄が、再び日本中のお茶の間を凍りつかせるのか。

今から楽しみで仕方がないですね。

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