【鬼滅の刃】伊黒小芭内はただの嫌な奴じゃなかった。その壮絶な過去と純愛の物語

『鬼滅の刃』という作品には、数多くの魅力的なキャラクターが登場します。

その中でも、初登場時の印象と物語終盤の印象が、これほどまでに変わるキャラも珍しいのではないでしょうか。

そう、蛇柱・伊黒小芭内。彼の話です。

今回は、多くの読者が「最初は苦手だったけど、今は大好き」と語る伊黒小芭内の魅力について、彼の内面に深く迫りながら語っていきたいと思います。

初見の感想「なんだこの感じ悪いヤツは…」

正直に告白します。俺が初めて伊黒小芭内を見た時の感想は、まあ、良いものではありませんでした。

柱合裁判で木の上からネチネチと炭治郎を非難する姿。

あの有名なセリフが、彼の第一印象を決定づけましたね。

「信用しない 信用しない そもそも鬼は大嫌いだ」

冨岡義勇への当たりも強いし、不死川実弥とタッグを組んで炭治郎を追い詰める様は、ハッキリ言って「嫌な奴」そのもの。

オッドアイのミステリアスな容姿、口元を隠す包帯、首に巻かれた白蛇「鏑丸」。

ビジュアルは満点なのに、性格に難アリ。そんな印象を抱いたのは俺だけではないはずです。

極めつけは柱稽古編。

隊士を縛り上げて障害物にするという、もはやパワハラ研修以外の何物でもない修行方法。

挙句の果てに、礼を言った炭治郎に浴びせた言葉は「さっさと死ね、ゴミカス」。

…うん、擁護のしようがありません。この時点では。

不器用なりの正義と、仲間への深い信頼

しかし、物語が進むにつれて、彼の違った一面が少しずつ見えてきます。

例えば、遊郭編のラスト。上弦の鬼を倒し、重傷を負って引退を決意した宇髄天元のもとに一番に駆けつけます。

口では嫌味を叩きながらも、柱が欠けることへの危機感を述べ、彼の引退を止めようとする。

これは彼が鬼殺隊という組織を深く想い、その和を重んじているからこその言動だったわけです。

また、煉獄杏寿郎の訃報を聞いた際には、「俺は信じない」と静かに呟きました。

この一言に、彼が一度認めた仲間に対して、いかに深い信頼を寄せているかが凝縮されているのではないでしょうか。

ただ、この時点ではまだ「根は悪い奴じゃないのかも…?」くらいの評価でした。

彼への評価が180度覆るのは、やはり彼の壮絶な過去が明かされてからでしょう。

全ては「汚れた血」への絶望から始まった

伊黒小芭内のネチネチとした性格、他者を信用しない姿勢、そして鬼への異常なまでの憎悪。

その全ての根源は、彼の血塗られた過去にありました。

三百七十年ぶりに生まれた男児として、座敷牢に幽閉されて育った少年時代。

彼の一族は、下半身が蛇の女鬼に赤子を生贄として捧げることで、その鬼が奪った金品で富を得ていたのです。

伊黒は、珍しいオッドアイだったために蛇鬼に気に入られ、「成長してから喰う」ために生かされていました。

過剰な食事は彼を肥え太らせるため。家族からの異常な優しさは、最高の生贄にするため。

そして12歳の時、彼は蛇鬼によって口を裂かれ、その血を啜られるという、地獄のような経験をします。

口元を包帯で隠していたのは、この時のおぞましい傷を隠すためだったのです。

心を蝕んだ、生き残りからの罵声

命からがら逃げ出した彼を待っていたのは、さらなる絶望でした。

彼が逃げたことで蛇鬼は怒り狂い、一族は皆殺しにされたのです。

生き残った従姉妹から投げつけられた言葉は、あまりにも残酷でした。

「あんたのせいよ。あんたが逃げたせいで皆殺されたのよ!!(中略)大人しく喰われてりゃ良かったのに!!」

なんという理不尽。しかし、この言葉は幼い彼の心に「サバイバーズ・ギルト」という深い傷を刻みつけます。

自分は「汚い血」の一族であり、その上、仲間を見殺しにした「屑」なのだと。

この強烈な自己嫌悪こそが、伊黒小芭内という人間を形成する核となってしまったわけです。

鬼を憎み、鬼殺に身を投じたのも、汚れた自分の血を浄化したいという、悲痛な願いからだったのかもしれません。

唯一の光、甘露寺蜜璃への純愛

そんな絶望に満ちた彼の人生に、一筋の光が差し込みます。恋柱・甘露寺蜜璃との出会いです。

過去のトラウマから女性全般に嫌悪感すら抱いていた彼が、唯一心を開いた存在。

彼女にだけ見せる優しさは、もはや砂糖を吐くレベルです。

  • 文通を交わし、彼女の文章を褒めちぎる。
  • 彼女のためにニーハイソックスをプレゼントする。
  • 彼女が美味しそうにご飯を食べる姿を見るだけで幸せな気持ちになる。

柱稽古で炭治郎に「馴れ馴れしく甘露寺と喋るな」と牽制したのも、今となっては微笑ましい嫉妬にしか見えません。

しかし、彼の愛はあまりにも純粋で、そして悲しいものでした。

「汚れた血」を持つ自分は、彼女のような素敵な女性と結ばれる資格がない。

だから彼は誓います。

無惨を倒して、一度この汚れた血の自分を死なせ、鬼のいない平和な世界で、もう一度人間に生まれ変われたら。その時こそ、必ず君に「好きだ」と伝えよう、と。

…泣ける。こんなに切なくて純粋な恋心が、この世にあるでしょうか。

もはや彼の戦う理由は、鬼への憎しみだけではなかったのです。愛する人と、来世で結ばれるために。その一心でした。

最終決戦で見せた、蛇柱の真骨頂

彼の覚悟は、最終決戦で鮮烈な輝きを放ちます。

無惨の攻撃で両目を切り裂かれ、視力を完全に失ってもなお、彼は決して屈しませんでした。

相棒の鏑丸の助けと、炭治郎から託された愈史郎の札によって視界を補い、死闘を続けます。

あれほど嫌っていた炭治郎と背中を預け合い、的確に連携する姿は、読者の胸を熱くさせました。

そして、炭治郎にかけた「感謝する」の一言。これは、他者を拒絶し続けてきた彼が、ようやく仲間を信じ、共に戦う意味を見出した瞬間だったと言えるでしょう。

彼の執念が、夜明けまでの時間を稼ぎ、鬼舞辻無惨討伐の大きな礎となったのは間違いありません。

なぜ俺たちは伊黒小芭内に惹かれるのか

初登場時は、ただの嫌味な皮肉屋。それが、彼の過去と内面を知るにつれて、誰よりも不器用で、純粋で、そして悲しい男であることがわかってきます。

壮絶な過去を背負い、自分を「汚物」とまで卑下しながらも、たった一つの恋を胸に、命を燃やし尽くした。

その生き様は、あまりにも人間臭く、そして美しい。

もし彼らが生まれ変われたなら、今度こそ二人で食事ができる定食屋を営み、幸せに暮らしてほしい。

そう願わずにはいられない。伊黒小芭内とは、俺たち読者にそう思わせてくれる、最高のキャラクターの一人なのです。

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