ドクターストーンはエセ科学?ありえない説を本音検証
- 2026.07.18
- Dr.STONE
で、本音のところ、どうなの?
『Dr.STONE(ドクターストーン)』を読んでいると、たいていの人が一度は「これ、エセ科学じゃない?」「さすがにありえないでしょ」と思う瞬間にぶつかる。検索窓に「ドクターストーン エセ科学」と打ち込んだあなたも、たぶんそのクチだ。
正直に言うと、ツッコミどころはある。でも「全部デタラメ」かというと、それも違う。本音のところを、賛否の両面から整理していく。
そもそも”エセ科学”って言われるのはどこ?
まず、どこが引っかかるのか。読者から「ありえない」と言われやすいのは、だいたい次の3つに集約される。
1. 主人公・千空が石化中も秒数を数え続けた話。石になってから目覚めるまでは約3700年。秒に直すと、ざっと11億秒を超える。それを意識だけでカウントし続けた、という設定は、人間の集中力や睡眠のことを考えるとまず不可能に近い。ここは一番よく突っ込まれるポイントだ。
2. 桁外れの決め台詞。「100億パーセント」といった言い回しは、パーセントが本来100%を上限にする単位だと考えれば、数値としては完全に破綻している。まあこれは明らかにノリの表現なんだけど、律儀に受け取ると「非科学的」に見えてしまう。
3. 文明再建のスピード。ごく少人数で、硫酸もガラスも火薬も、次々に作り上げていく。一つの道具を作るのに本来は何段階もの前工程が要るはずなのに、話の運び上サクサク進む場面もある。現実の工程数や失敗回数を思うと「早すぎる」と感じる人は多い。
この3つが、「ドクターストーン エセ科学」というクエリの正体だと思っていい。気持ちは分かる。私も初読のとき、11億秒のところで一回本を閉じた。
じゃあ本当にぜんぶデタラメなのか?
ここが本題。結論から言うと、ノーだ。土台の化学は、むしろかなり本物寄りに作り込んである。
まず、この作品には科学監修が付いている。監修を務めるのは薬理凶室のくられ氏で、描写が科学的に成立するかを、専門家の知見も交えてチェックする役割を担っている(参考: KAI-YOU「Dr.STONE 科学監修 くられ先生とは?」)。思いつきで科学っぽく描いているわけではない。SF作品として筋が通る背景を立てたうえで、そこにドラマを乗せている、という順番だ。
具体例を出す。物語の鍵になる復活液「ナイタール」は、硝酸とアルコール(エタノール)を混ぜたものだ。これは作中の造語ではなく、金属の組織を腐食させるために現実で使われている本物の腐食液の名前でもある。
その硝酸も、序盤はコウモリの糞から取り、のちに白金を触媒にしたアンモニア酸化法で量産していく。この製法は現実の工業プロセスそのものだ。火薬にしても、硫黄・炭・硝酸カリウムという基本の組み合わせは化学的に筋が通っている。
もっと身近なところでは、ラーメン作りもある。雑穀を砕いて粉にし、炭酸カリウムを加えてあの独特のコシを出す——これは現実の中華麺が「かん水」というアルカリ剤で麺の食感を作るのと同じ理屈だ。派手な発明だけでなく、こういう地味なところまで理屈が合っている。
実際、ファンや教育系の媒体が作中の実験を再現して「本当に成立するのか」を確かめる動きもある。ガラスやカルピス作りのように、手順どおりにやってみたら再現できた、という報告は珍しくない。理科の教材として取り上げられることさえある。土台は、遊びで作っていない。
もちろん、家庭で安易に真似できない危険なものも含まれる。それでも「化学の筋道そのものはウソじゃない」というのが、多くの検証記事に共通する結論だ。
わかりやすいのは、実験系の媒体が劇中の飲み物づくりを硫酸などを使って再現してみた、という検証記事だ。手順を追えば、ちゃんと近いものができるらしい。さらに公式側でも、作中に登場した発明を実際に試してみせる企画映像が作られている。「机上の空論で描いていない」という姿勢が、作り手からも見えるわけだ。だから飛躍している部分と、地に足のついた部分は、意外とはっきり分かれている。
なぜそれでも読者は納得してしまうのか
面白いのはここだ。ツッコミどころがあるのに、読んでいる最中はスッと納得してしまう。理由は大きく3つある。
1つ目は、手順を省かないこと。材料を集める→加工する→完成する、という工程を一段ずつ積み上げて見せるから、途中を飛ばした嘘に見えにくい。
2つ目は、土台が本物だから。監修で骨格が固まっている作品は、多少の誇張が乗っても全体の信頼が崩れない。「ここは本当、ここはノリ」の配分がとにかくうまい。
3つ目は、作者自身が割り切っていること。原作者は、漫画として面白くするために、あえて科学的な厳密さを飛ばす場面があると語っている(参考: 日経クロストレンド『Dr.STONE』原作者インタビュー)。つまり多くの飛躍は「バレる嘘」ではなく「演出として選んだ省略」なわけだ。「100億パーセント」も、科学の主張ではなくキャラの熱量を伝える表現として置かれている。
だから「エセ科学」というより、「本物の科学に、物語を走らせるための省略と誇張を足したもの」と見たほうが実態に近い。この線引きが見えると、感じていたモヤモヤはだいぶ晴れるはずだ。
本音のところ
認めるところは認める。3700年のカウントも、文明再建のスピードも、リアルに詰めれば「ありえない」。「科学漫画」という看板に厳しくなる気持ちは、私にもよく分かる。
ただ、この作品は科学の教科書を目指しているわけじゃない。「科学ってこんなにワクワクするんだ」を伝えるための装置だ。土台の化学は本物で、飛躍はそのワクワクを走らせるための燃料。厳密さを取るか、物語の勢いを取るか——そのバランスの置きどころは作品ごとに違っていい。どちらを重く見るかで評価は割れるし、そこは読者それぞれの感覚でいいと思う。
少なくとも、「監修も入れずにテキトーに科学っぽくしているだけ」の作品では決してない。エセ科学と切り捨てる前に、そこだけは誤解しないでほしい。
それでもDr.STONEが面白い理由
結局のところ、ゼロから文明を作り直していく高揚感と、手順を惜しみなく見せる誠実さが、この作品の芯だ。多少ありえない飛躍があっても、科学が主人公をちゃんと助ける物語として、これは一級品だと思う。
読み終わったあとに、ちょっと理科室を覗きたくなる。そんな漫画は、そうそうない。「ありえない」と感じた場面ほど、じつは調べると本物の化学が隠れていたりする。だからエセ科学かどうかでモヤモヤし続けるより、まず一度その高揚感を味わってほしい。そのうえで気になった発明を自分で調べ直すと、二度おいしい作品だ。
本当は硝酸の作り方だけで一本書きたいくらいには、この作品の化学が好きだ。辛口で始めたのに、気づけば「でもここは本物なんだよ」を語りたくてうずうずしている。いつものクセである。
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