進撃の巨人は結局誰が悪いのか
- 2026.07.28
- 進撃の巨人
で、本音のところ、どうなの? 『進撃の巨人』を読み終えたあと、多くの人が同じところで止まります。「結局、誰が悪かったんだ?」と。正直に言うと、この問いに一人の名前で答えるのは無理です。ただ「誰も悪くない」で流すのも違う。この記事では、責任の所在を3つの論点に分けて、どこまでが誰の選択だったのかを整理します。
【ネタバレ注意】本記事には諫山創『進撃の巨人』(講談社・全34巻)の最終盤までの内容が含まれます。
で、エレンが全部悪いってことでいいの?
いちばん多い答えがこれです。そして、いちばん反論も多い。
まず事実から。地鳴らしを発動させたのはエレンです。壁の中の巨人を進軍させ、作中では世界人口の約8割が失われたとされます。規模だけを見れば、作中最大の加害者はエレンで間違いありません。
ただ、ここで多くの読者が引っかかる点が3つあります。
1つめ。エレンは選択肢を与えられた側でもありました。パラディ島は世界中から滅ぼされる対象として名指しされており、「何もしなければ島が消える」という状況が先にあった。これは彼が作り出した状況ではありません。
2つめ。エレンは全滅ではなく8割で止まっています。完遂を選ばなかったこと自体が、彼が単純な破壊者ではないことを示している、という読み方があります。
3つめ。未来を見た者の行動を「選択」と呼べるのか、という問題。作中でエレンは進むべき道をすでに知った状態で動いています。知ったうえで進んだのか、進むことが決まっていたから知ったのか——ここは読者によって解釈が割れる部分です。
気持ちは分かります。8割を踏み潰した人物を擁護するのは無理がある。ただ「エレンが悪い」で止めると、なぜ彼がそこまで追い詰められたのかという問いが丸ごと消えてしまう。それが、この答えに納得しきれない人が多い理由だと思います。
じゃあ2000年前のユミルとフリッツ王が元凶なのか?
次に名前が挙がるのがここです。すべての始まりは2000年前にある、という見方。
ぶっちゃけ、構造だけを見ればこの説はかなり強い。巨人の力が生まれ、それが王家に握られ、民族の対立が固定化された起点は明確に2000年前です。エレンの世代が背負わされたものは、彼らが選んだものではありません。
ただし、ここでも整理が要ります。
始祖ユミルは、力を得た側であると同時に、王に従属させられた側でもありました。彼女が主体的に何かを選んだ場面は、作中では長らく描かれません。むしろ「選べなかった存在」として描かれ続け、最後にエレンとの対話を経て、自分の意思で動きます。加害の起点に立たされてはいるが、彼女を「悪」と呼ぶのは相当に苦しい。
フリッツ王側はどうか。壁の中に閉じこもり、記憶を改竄し、島の人々から歴史を奪った。この判断は、後の世代に何が起きているのかを分からなくさせました。100年単位で見れば、これがいちばん重い過失だという指摘には説得力があります。
わかる、あれはね……つまり「悪意があったか」と「結果として何を残したか」がズレているんです。ユミルには悪意がない。王には悪意というより逃避がある。それでも被害は積み上がった。ここを分けて考えないと、議論がかみ合いません。
マーレと世界の側に責任はないのか?
ここが、意外と軽く扱われがちな論点です。
マーレはエルディア人を収容区に押し込み、巨人化させて兵器として使い続けました。子どもを含む人間を、消耗品として運用していた。これは作中で明確に描かれている事実です。
さらに世界の側は、パラディ島を「駆逐すべき悪魔の島」として扱い続けました。島にいる一人ひとりが何を考えているかを問わず、集団として抹消の対象にした。地鳴らしが起きる前から、その敵意は存在していました。
データとして押さえておきたいのは、この対立が数年ではなく100年以上続いてきたという点です。長期にわたって差別と報復が制度化された結果、どちらの側にも「相手を人間として見ない」思考が定着していました。
ただし、これを理由に地鳴らしを正当化できるかというと、それは別問題です。「先に殴られたから8割殺していい」という論理は成立しません。責任の所在を分散させることと、実行された行為を免責することは違う。ここを混ぜると議論が壊れます。
本音のところ
正直に言うと、この作品は「誰が悪いか」に答えを出さない設計になっていると思っています。
なぜなら、登場人物のほぼ全員が「自分が守りたいもの」のために動いているからです。エレンは仲間を、ジークは同胞を、マーレは自国を、島の人々は自分たちの生活を。誰も悪役をやろうとして動いていない。それなのに結果は最悪になる。この構造こそが作品の主題そのものです。
そのうえで、あえて筆者の見解を書きます。個々の人物に責任を割り振るなら、比重がいちばん大きいのは実行者であるエレンです。ただし「悪い」という言葉で片づけると見落とすものが大きすぎる。彼を最後まで追い込んだのは、100年以上かけて積み上がった構造の側だからです。
実行の責任はエレンに、状況の責任は歴史と制度に。この2つを分けて置くのが、いちばん破綻の少ない整理ではないかと考えています。もちろん、どう感じるかは読んだ人それぞれです。ここで「正解はこれ」と言い切れる作品なら、これほど長く議論が続いていません。
それでも進撃の巨人が面白い理由
答えが出ない問いを、10年以上にわたって読者に投げ続けた作品です。読み終えてもスッキリしない。むしろ読むたびに立場が変わる。
でもね、これがあるから『進撃の巨人』は面白いんだと思います。悪役を用意して倒せば終わる物語なら、誰が悪いのかを何年も議論したりしません。全員に事情があって、全員が間違えて、それでも誰かを憎みきれない——そこまで描き切った作品だから、いまだに読者を掴んで離さない。答えが出ないことが、この作品の完成度そのものです。
単行本は講談社の公式作品ページ、連載関連の情報は週刊少年マガジン公式サイトの特設ページで確認できます。
この記事を書きながら、途中で3回スタンスが変わりました。書き終えたいまも、明日読み返したらまた変わっている気がします。ジーク側から同じ問いを立て直す記事も書きたくて、もう下書きが半分できています。
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