【チェンソーマン考察】マキマさんという、作中最恐の女。歪んだ支配欲とその正体

『チェンソーマン』という作品を語る上で、絶対に避けては通れない存在。それがマキマさんです。

美しい容姿、ミステリアスな雰囲気、そして時折見せるゾッとするほどの冷酷さ。

多くの読者が彼女に魅了され、同時に恐怖を覚えたはずです。

ただの「綺麗な悪女」で終わらない、彼女の底知れない魅力とは一体何なのか。

今回は、主人公デンジだけでなく、俺たち読者の心をも掌握したマキマというキャラクターの本質に迫っていこうと思います。

理想の上司、という名の甘い罠

物語の序盤、マキマはまさに「理想の上司」として登場します。

公安対魔特異4課のリーダーとして、冷静沈着にチームを率いるカリスマ性。

どん底の生活を送っていたデンジに居場所と食事を与え、優しく接する包容力。

デンジでなくとも、あんな美女に「君が必要だ」なんて言われたら、ついて行きたくもなりますよね。

デンジが好きなタイプを聞いた時、「デンジくんみたいな人」と返すシーンなんて、思わせぶりにも程があるでしょう。

しかし、彼女の優しさは、常に冷たい刃と隣り合わせです。

「キミの選択肢は二つ 悪魔として私に殺されるか、人として私に飼われるか」

初対面のデンジに投げかけたこの言葉は、彼女の本質を端的に表しています。

彼女にとって他者は「支配する対象」でしかありません。

そのための手段として、彼女はアメとムチを実に巧みに使い分ける。

「キミは私に飼われてるんだよ 返事は『はい』か『ワン』だけ いいえなんて言う犬はいらない」

このセリフに、彼女の歪んだ支配欲が凝縮されています。

優しさも、思わせぶりな態度も、全ては相手を意のままに操るための道具。

そのことに気づいた時、読者は彼女の笑顔の裏にある底知れない闇に気づき、震え上がるのです。

人間を超えた存在感、その瞳の奥にあるもの

マキマの不気味さを際立たせているのが、彼女の人間離れした描写です。

まず、あの特徴的な「ぐるぐる目」

美しい顔立ちの中で、感情を一切読ませない同心円状の瞳は、彼女が「こちら側」の人間ではないことを雄弁に物語っています。

そして、その戦闘能力はまさに規格外。

銃で頭を撃ち抜かれても平然と蘇り、遠く離れた場所にいる標的を、名前を言わせるだけで圧殺する。

もはやデビルハンターというより、彼女自身が災害級の悪魔です。

作中でも「契約悪魔は不明」とされ、その力の源が長らく謎に包まれていたことも、彼女のミステリアスさと恐怖を増幅させていました。

部下であるはずのパワーが彼女を極度に恐れ、経験豊富な岸辺でさえ警戒を解かない。

周囲のキャラクターの反応が、マキマの異常性をより一層引き立てていると言えるでしょう。

彼女はただ強いだけじゃない。生物としての格が違う、そんな絶対的な恐怖を感じさせます。

【ネタバレ注意】彼女が仕組んだ、あまりにも残酷な「幸せ」

さて、ここからは物語の核心に触れる、ネタバレ全開で語っていきます。

まだ『チェンソーマン』第一部を読んでいないあなたは、今すぐブラウザを閉じて漫画を読んでください。マジで。

……読みましたか?では、続けましょう。

物語の終盤、マキマの真の目的とその正体が明かされます。

彼女の正体は「支配の悪魔」

そして彼女の目的は、デンジの中にあるポチタ、すなわち「チェンソーマン」の力を手に入れることでした。

そのために彼女が実行した計画は、悪魔的という言葉すら生ぬるい、非道の極みです。

彼女は、デンジとポチタの「普通の生活を送る」という契約を破棄させるため、デンジを徹底的に絶望させることを選びます。

しかし、元々何も持っていなかったデンジを絶望させるのは難しい。

そこで彼女が考えたのは、「一度デンジを最高に幸せにしてから、その全てを奪い去る」というものでした。

仕事を与え、アキやパワーというかけがえのない「家族」を与え、デンジに「普通の幸せ」を教え込む。

そして、その幸せが最高潮に達した瞬間、デンジ自身の手でアキを殺させ、目の前でパワーを惨殺するのです。

あの時の、無邪気に笑い転げながらデンジの心を壊していくマキマの姿は、まさに悪魔そのものでした。

「そんな人間が普通の生活なんて望んでいいはずがないよね?」

このセリフは、彼女の計画の完成を告げる、勝利宣言に他なりません。

読者がデンジと共に築き上げてきたささやかな日常を、彼女はたった一人で、いとも容易く破壊し尽くしたのです。

「マキマ」から「キ」を斬ると、「ママ」になる

ではなぜ、マキマはここまで歪んでしまったのか。

そのヒントは、作者である藤本タツキ先生が明かした、彼女の名前の由来に隠されています。

少しゲスい話になりますが、作者のインタビューによると、こんな説が語られています。

  • デンジは幼い頃に母親を亡くしており、マキマに恋愛ではなく母性を求めている。
  • チェンソーは「木」を切る道具。
  • 「マキマ」の名前から「キ(木)」をチェンソーで斬ると、残るのは「ママ」

……このギミックに気づいた時、俺は鳥肌が立ちました。

デンジがマキマに向けた感情は、純粋な恋心ではなく、親から虐待を受けて育った子供が母親に求めるような、絶対的な庇護と無償の愛への渇望だったのかもしれません。

そしてマキマもまた、その歪んだ愛情を「支配」という形でしか受け止め、返すことができなかった。

彼女はチェンソーマンの力で「より良い世界」を作ろうとしましたが、その根底には「対等な関係」を築けないという、彼女自身の悲しい欠落があったのではないでしょうか。

彼女は誰かを愛することも、誰かに愛されることも、支配というフィルターを通してしか理解できなかった。そう考えると、この最恐の悪魔が、少しだけ哀れな存在に見えてきませんか?

結論:それでも、俺たちはマキマに支配されたい

マキマは、美しく、賢く、そしてどこまでも残酷なキャラクターです。

彼女がもたらしたのは圧倒的な絶望であり、許されざる悪であることは間違いありません。

しかし、それでもなお、彼女に惹きつけられてしまうのはなぜでしょうか。

それはおそらく、俺たちの中にも「誰かに全てを決めてほしい」「導いてほしい」という、支配への密かな願望があるからではないか、と俺は思います。

複雑な現実から目を背け、絶対的な存在に身を委ねてしまいたいという誘惑。

マキマは、そんな人間の弱さにつけ込む、最も根源的な恐怖の象徴なのかもしれません。

だからこそ、俺たちは彼女のぐるぐる目に吸い込まれ、「ワン」と鳴くことへの抗いがたい魅力を感じてしまうのでしょう。

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