キルアとクラピカはなぜ気まずいのか
- 2026.08.25
- HUNTER×HUNTER
で、本音のところ、どうなの? 「キルアとクラピカ、二人きりだと気まずそう」——この感想、検索でもよく見かけます。正直に言うと、私も同じことを思っていました。仲が悪いわけではない。むしろ命を預け合っている。なのに、二人だけの画を想像すると急に沈黙が浮かぶ。今回はその居心地の悪さがどこから来るのか、3つの論点で整理してみます。
【ネタバレ注意】以下、『HUNTER×HUNTER』ヨークシンシティ編(単行本8〜13巻)までの展開に触れます。
で、そもそも二人ってどれくらい喋ってるの?
まず事実確認から。ゴン・キルア・クラピカ・レオリオの4人が同じ場所に集まる期間は、意外なほど短いんです。
ハンター試験編で出会い、そのあとはすぐ別々の道へ。再合流するのはヨークシンシティ編で、ここでも5人はそれぞれ別の役割で動きます。クラピカはノストラード組の護衛として幻影旅団を追い、ゴンとキルアはグリードアイランド購入の資金稼ぎ。同じ街にいても、やっていることが違う。
そしてヨークシン編が終わると、クラピカは物語の前線から一度離れます。グリードアイランド編でゴンとキルアが二人旅を続けるあいだ、クラピカとの接点は連絡のやり取りが中心になりました。
つまり、二人が「一対一で向き合った時間」がそもそも極端に少ない。気まずさの土台は、性格の相性ではなく単純な接触量にあります。ゴンやレオリオという緩衝材を抜いた状態を、読者はほとんど見たことがないんです。
なぜ二人の立場は噛み合わないのか
もう一段深いところに、立場の問題があります。ここが一番大きい。
クラピカは、一族を皆殺しにされた側の人間です。目的は幻影旅団への復讐であり、その動機は個人的で、絶対に譲れないものです。
一方のキルアは、暗殺を家業とする一族に生まれました。本人はその生き方を選ばずに家を出ていますが、生まれ育ちまで消えるわけではありません。
そしてヨークシンシティで、この二つが正面から交差します。マフィアの十老頭に雇われて幻影旅団の団長クロロを襲撃したのが、キルアの祖父ゼノと父シルバでした。クラピカが人生を懸けて追っている相手を、キルアの家族が仕事として狙っていたわけです。
クラピカにとって復讐は生きる理由そのもの。ゾルディック家にとって殺しは職業。同じ行為を、片方は魂で、片方は業務でやっている。この非対称は、話し合いで埋まる種類のものではありません。
どちらが悪いという話でもないんです。だからこそ、触れないほうが穏やかに済む。二人のあいだに漂うものの正体は、たぶんこの「触れないでおく合意」です。
じゃあ、二人は仲が悪いのか
ここははっきり言います。仲は悪くありません。
ヨークシン編で、ゴンとキルアは幻影旅団に捕まります。このときクラピカは、自分の能力でクロロを拘束し、二人を取り返すための人質交換に踏み切りました。復讐の対象を目の前にしながら、優先したのは仲間の命です。
キルアの側も同じです。旅団に囲まれた極限の状況で、彼は感情を切り離して脱出の道筋を組み立てます。その冷静さがなければ、交渉のテーブルそのものが成立しませんでした。
互いに一番危ないところで働いている。信頼という言葉が軽く聞こえるくらいには、実績があります。
ネット上で「たまに連絡を取るだけの関係」と言われることがありますが、あれは冷たさの指摘というより、距離の取り方が独特だという観察に近いはずです。用がなければ連絡しない。でも、必要なときには最短で動く。そういう間柄です。
考えてみれば、これは大人の付き合い方に近いのかもしれません。毎日顔を合わせて関係を確かめ合う必要がない。相手が自分の領分でちゃんとやっていると信じられるから、連絡しないでいられる。
ゴンとキルアの関係が「離れられない」タイプだとすれば、キルアとクラピカは「離れていられる」タイプ。同じ作品のなかに、まったく質の違う信頼が並んで置かれているわけです。
本音のところ
私の見方を書きます。気まずいのは、二人に共通言語がゴンしかないからだと思うんです。
クラピカとレオリオなら、試験編からの言い合いの歴史があります。ゴンとキルアには、二人で積み上げた旅の時間がある。ところがキルアとクラピカのあいだには、共有した雑談の蓄積がほとんどない。
しかも二人は、気質としてはよく似ています。頭が回って、状況を先に読んで、自分の弱い部分を人に見せたがらない。似た者同士が、相手の踏み込まれたくない領域を正確に察知できてしまう。だから踏み込まない。
これは不仲ではなく、むしろ敬意の形です。ただ、その敬意が沈黙として画面に出るぶん、読者には「気まずそう」と映る。
もちろん、まったく別の読み方もできます。単に描かれていないだけで、実際には普通に喋っているのかもしれない。どう感じるかは読者次第です。
それでも、この距離感が面白い
でもね、こういう関係をきちんと余白のまま置いておくところが、『HUNTER×HUNTER』の人物描写のうまさなんです。
全員を仲良しにしない。全員に見せ場のある会話を配らない。誰と誰は近くて、誰と誰は少し遠い——その濃淡があるから、4人が同じ場所に立つ場面が特別に見えます。
読み返すたびに、この二人の間合いだけ別の物差しで測られている感じがして、そこがたまらなく好きです。刊行情報は集英社公式のHUNTER×HUNTER 8巻のページから確認できます。ヨークシンシティ編は8巻から始まるので、この距離感を確かめるならそこからどうぞ。
書きながら、レオリオとキルアの距離も測りたくなってきました。あの二人はあの二人でまた違う間合いなんですよね。
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